婚約者の浮気相手が子を授かったので
「先生、大正解です。クラウス様との婚約が正式に解消されたので、これで私は自由を手に入れたわけです。ですが……」
 じとっとファンヌはエルランドを睨みつける。
「先生が辞めるだなんて、聞いてませんよ」
 はぁ、とファンヌは大きく息を吐いた。それから先ほど零したお茶の残りを一気に飲み干した。
「だから、書籍や薬草もこれだけの量しか置いていないんですね。それに、他の研究生の姿も見えませんし」
「ああ。あいつらは他の教授にお願いした。といっても、調薬を専門としている研究室も限られているからな。マルクスの奴が全員を受け入れてくれた」
 マルクスとはエルランドと同じ『調薬』を専門としている教授の名だ。年は三十代前半。少しおでこが広くなってきていることが悩みの種のようで、それに効くような『調薬』を研究していることで有名である。とにかく、明るくユーモラスな教授だ。
「でしたら、私もマルクス先生の元にお願いに行った方がいいでしょうか」
「あいつの『調薬』の研究は独特だからな。君の『調茶』と合うかどうか難しいだろう」
「ですよね。私の『調茶』の技術も、エルランド先生がいたから出来上がったようなものですしね」
 そこでエルランドはゴクリと喉を鳴らした。
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