婚約者の浮気相手が子を授かったので
 そして今、エルランドはファンヌの部屋にノックもせずに勢いよく入ってきたところであった。
「エルさん。部屋に入るときは、せめてノックをしてください」
 そんなやり取りも毎日の恒例となっている。ファンヌは、このベロテニアで希望する者に『調茶』を教えるための資料を作成していたところ。急にエルランドが部屋に来て、ぴくりと身体が震えたため、今、書いていた文字も震えてしまった。
「すまない。それよりもハンネスが」
「お兄様が、今度は何を送ってきたのですか? くだらないものでしたら、私からお兄様に説教をしておきますから」
 転移魔法の乱用と言いたくなるほど、ハンネスは小まめに何かを送ってくる。まとめて送ればいいものの、彼はすぐに何かをやり遂げないと気が済まない性分なのだ。そのたびにこうやって、エルランドはファンヌの部屋を訪れる。
「今回は、違う。獣化に関する論文と、それの見解だ」
 エルランドはファンヌにハンネスからの手紙を手渡した。ファンヌは黙ってそれを受け取り、視線を走らせる。
 だが、彼女の顔はみるみるうちに赤くなっていく。あのとき、彼の獣化が解けたのも、この論文を読めば納得はできる。
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