ビター・マリッジ
「だって、靴が海水に濡れて嫌そうにしてる幸人さんを見るのがおもしろそうだから」
「お前、この頃あまり俺に臆しなくなったな」
幸人さんが私の顔を見つめて、微妙に顔を顰める。
「だとしたら、幸人さんの妻がだいぶ馴染んできたんだと思います」
ふふっと笑うと、コーヒーを飲み終えた幸人さんが立ち上がった。
「出発は一時間後でいいか?」
「あ、はい」
幸人さんを見上げて頷くと、彼が私の頭をぽんっと撫でた。
幸人さんの不意打ちの仕草が、私の頬を火照らせる。
そんなことなど知らない幸人さんは、コーヒーカップをキッチンのシンクに下げると、出かける準備をするためにリビングから出て行ってしまった。
幸人さんの姿が見えなくなったあと、彼が撫でてくれた頭に手をのせてみる。そこに触れた幸人さんの体温の低い手の感触を思い出すと、それだけで胸が高鳴った。