ビター・マリッジ
No her, No life.Ⅲ

夕食後にリビングのソファーで持ち帰った仕事を片付けていると、背後に梨々香の気配を感じた。

振り向くと、風呂上がりの梨々香がパーカーの袖を引っ張りながら、何か言いたげにモジモジとしている。 

「どうした?」

「あ、の……、幸人さんはまだ寝ませんか?」

声をかけると、梨々香が少し躊躇ってから、意を決したように訊ねてくる。

結婚当初、俺が後継者目的で四ノ宮グループの娘を妻にしたと思い込んでいた梨々香は、毎月身体のタイミングに合わせて子作りしようと、俺のことを誘ってきていた。

風呂上りに露出多めで接近してきたり、必要以上にすり寄ってきたり。目的を果たすために俺の気を惹こうと一生懸命になっているのが面白かったのだが。

最近は、梨々香からのそういう誘いはほとんどなくなっていた。

梨々香に誘われるより先に、俺が彼女に触れることが多くなったからだ。

それなのに、パーカーの袖を引っ張ったり、手を軽く握り合わせたりしながら俺の顔色を窺っている梨々香は、なんとなく結婚当初の彼女を彷彿とさせる。

その姿を見て、俺は一週間前に梨々香を連れて両親と食事に出かけたときのことを思い出した。

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