ビター・マリッジ
呆れたように僅かに眉尻を下げた幸人さんが、涙の溢れた私の目尻を指先で拭う。
素肌に感じた指先の冷たさにピクリと肩を震わせると、幸人さんが涙で濡れた私の頬に唇をあてた。
頬に落ちる涙を拭いとる幸人さんの唇は、指先の冷たさに反して熱くて柔らかい。
目を閉じた私の唇を、幸人さんの熱い唇が塞ぐ。
素肌を滑る幸人さんの指先の冷たさと、唇の熱。その両方を感じながら、私は最後まで冷静さを保つよう努力した。
幸人さんが私を妻にしたのも、こうして触れるのも、菅原工業と四ノ宮グループとの繋がりを強固にし、菅原工業を支える後継者を作るため。
私は幸人さんの妻として、彼に求められる役割だけを担えばいい。
彼に対して特別な感情を持ってもムダだ。
幸人さんが自分から私に触れてきたのは、結婚式の夜だけだった。
そのあとは私に指一本触れてこようとしない彼の態度に、私はこの結婚の意味を悟った。
私は幸人さんとともに生活をして、月に一度だけタイミングを計算して彼のことを誘えばいい。彼とのあいだに後継者を作るために。
だってこの結婚は初めから、四ノ宮グループと菅原工業を結びつけるだけのもので。
私は、姉の穴埋めとして充てがわれた、肩書きだけの妻だ。