ビター・マリッジ
お風呂と食事を済ませたらしい幸人さんが、寝室に入ってくる。
まだ起きていることを気付かれないように布団のなかでじっと息を潜めていると、幸人さんがベッドに入ってきた。
けれどすぐに寝るつもりはないらしく、ベッドサイドのライトが灯る。
そっと盗み見ると幸人さんは、座ったまま文庫本を開いていた。本のページに視線を落とす彼は、いつもどおりの無表情だ。
私の前ではほぼ眉ひとつ動かすことのないこの顔が、他の女性の前では柔和になる。そう思ったら、ひどく悔しい。
私も……、私だって――。
幸人さんにぶつけることのできない悔しさや、やるせなさで、私の気持ちは自分でもおかしなくらいに掻き乱されていた。
眠っているフリを続けるつもりだったのに、胸の奥から湧き上がってくる衝動を抑えられない。
気付くと私は起き上がって、本を読む幸人さんに布団の上から跨っていた。
「なんだ、起きてたのか?」
突然膝に乗っかってきた私を軽く見上げる幸人さんの声は、嫌になるくらい平然としていた。