BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに
1.ここは耽美な世界ですね

1.

「お兄さま、第五騎士隊の隊長就任、おめでとうございます」

「ありがとう、ジーン。ジーンにそう言ってもらえると、頑張った甲斐があったなぁ」
 お兄さまと呼ばれた男が、ジーンという少女を抱き締め頬にちゅっと口づけた瞬間。

 ――あ、思い出した。

 ジーンことジーニア・トンプソン。このトンプソン家の長女。父と母と兄と、そしてジーニアの四人家族。兄は、王立騎士団第五騎士隊隊長に就任したばかりのジェレミー・トンプソン。今、ジーニアの頬にちゅっと口づけをした男だ。
 父と母は嬉しそうに二人を見守っているし、ジーニアも「お兄さま、くすぐったいですからやめてください」なんて言っているけど、それを一歩引いて眺めているようなジーニア自身がいた。それはジーニアの意識の中にある意識。ジーニアの前世といっても過言ではないかもしれないそれ。
 不思議なことに、今ジェレミーとじゃれ合っているジーニアとしての行動を取りながらも、別なジーニアが心の中にいるような感覚だった。夢を見た時に、自分が動いているのを空から見ているような、そんな感覚。つまり今、ジーニアにとっては夢を見ているような状態になっているということなのか。

 ――ジーニア・トンプソンって、あの『光り輝く君の中へ』に出てくるキャラよね。

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