BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに
 ジーニアは大きく息を吸ってから、あのときのパーティで見たことを口にした。乾杯の儀のとき、クラレンスをじっと見つめていたこと(これが、誰にも言わないでと口走ったこと)。だから気付いたのだ、クラレンスに近づく怪しい人物を。

「怪しい人物って、財務大臣のペトル・マコヴィか?」

「お兄さま、残念ながら私はその怪しい人物の名前を存じ上げていないのです。とにかく、怪しいもさっとした親父、ではなく男性がですね、何やらちらちらとバルコニーの方を見ていたのです」

「お前、そんなことにまで気付いたのか? すごいな」
 と感心するジェレミーの隣で、グレアムは必死に記録を取っている。

「だって、ちらちらちらちらちらちら、と。こちらの気が散るくらいに見ていたのですよ。そうしたら、何があるのかしら、と気になるじゃないですか」

「ん、まあ。そうだな。だが、他の者は気付かなかったようだが」

「それは恐らく、みなさん、自分のグラスを受け取ることに夢中になっていたからではありませんか?」

 ジーニアは「クラレンスが誰からグラスを受け取るのが重要な分岐点だから、目を逸らさずに見てました」とは、さすがに言えないと思ったため、適当なことを口にした。

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