エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
『慧、見ろ天笠の娘さんだ。幼い頃から知ってはいるが、これほどの美人になるとはな。天笠も箱入りに育てたもんだ。これじゃあ世間が騒ぐわけだよ』

半年前、父親が寄こした雑誌を見たとき、あまりに可憐な写真に魅入ったと言ったら、君はどう思うだろうか。

雑誌が発売されたと同時に、彼女は瞬く間に時の人となった。
色とりどりの花をバックに微笑む姿が、多くの人々を魅了したのは間違いない。だからと言って、ストーカーをして良い理由にはならないが。

父親との対談。
天笠花壇の令嬢というのもまた、彼女の魅力にプラスになった。

俺は仕事にプライドを持ってやってきた。いつ何があるかわからない任務では、家庭を持つことなど難しいと思っていた。

それがどうしたことか、写真を見て一目惚れだなんて。

父親の親友の娘。
なんとか会える方法はないかと思っていたところの、今回の相談だった。結婚を前提にという突拍子もない話ではあったが、受けない手はない。

二つ返事でOKした。

今回、父親たちが結託した婚約話がなければ、俺もストーカー男と立ち位置は同じだったわけだ。

初めて詩乃に会ったときの、空気が清涼になるような感覚。
現実は想像よりもっとあどけなかった。
色白で華奢で、弱々しい姿は庇護欲をかき立てられた。

インタビューを受けたのは、記者が是非一緒に対談をと、しつこい程のアプローチを受けたからだと聞いているが、この愛らしい空気感を知れば必死になるのも納得だ。

彼女は加えて性格も申し分ない。
ここ半年ほどの世間の状況に、疲弊しているところはあったが、ふとしたときに見せる笑顔や、なんとか楽しもうと努力しているところはいじらしかった。

彼女が欲しい。
どんどん手に入れたくなる。
大切な人は作らないなどというそんな考えは、彼女の前では吹き飛んだ。

一年の猶予をもらったのだから、その間にどうにか振り向かせないと。

今はきっと男が怖いだろうから、徐々に徐々に距離を縮めよう。そして、詩乃の気持ちが見えてきたら好きだと告げよう。

無理をして、嫌われることだけは避けなくては。
抱きしめて、唇を奪いたいという欲を堪えて、目の前の天使を眺めた。

“他の男と変わらない” そんなふうに離れてしまわれては堪らないから。

「詩乃、君を守るのは俺だ」

やっぱり疼いた気持ちを抑えられなくて、柔らかい髪にほんの一瞬、唇を寄せた。
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