エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
あっという間に時は過ぎ、夏が間近となる。

慧さんと婚約者のフリを始めてから四カ月が経っていた。

桐生さんの店で捕まった男は、罰金と禁止命令が出され存分にお灸を据えられたおかげか、その後静かだった。

男は学生で、あの日はたまたま見かけたわたしを追いかけて店に入ったらしい。
ストーカーというより、アイドルの追っかけのような気分だったらしく、表向きはすでに執着を示していない。
けれど、逆恨みすることが多いので、警戒は続けていこうという話だった。

不安な気持ちはまだまだあるが、気づかってくれる周りのおかげで、なんとか精神的にも落ち着いてきている。

慧さんもお父さんも過保護で、大学への送迎もすっかり板についてしまった。

校内では理央がついてくれている。
理央とは講義もゼミも全部一緒にしていたので、それが功を奏していた。勇ましく、周囲を威嚇してくれている。

女友達まで遠ざけてしまうのはちょっと困っているが、「念には念を。なにかあったらどうするの」と憤慨する彼女に、 “少しくらい大丈夫” で失敗していたわたしは従うのみだった。

すっかり甘え癖がついてしまい、卒業後にひとりに戻れるのかと、最近では違う心配がでてきている。

わたしと慧さんの仲も深まっているとは思う。
それを見ているせいか、父親たちの結婚への意欲は膨れ上がっていて、式場は決めなくていいのかとか、新居はまだ見つからないのかと騒がしい。


そんな時、パーティーへのお誘いが舞い込んできた。

「パーティーに招待?」

「そう、母親のジュエリーコレクションの発表があるんだ。年に一度、ブランドの新作と合わせて展示するんだけど、パーティー形式で行うのが通例なんだ。立食もあるし、賑やかだよ。
詩乃を連れてくるように言われている」

いつものように、仕事帰りに家へと立ち寄ってくれた慧さんは、スーツのジャケットを脱ぎながら言った。

わたしはそれを受け取ってハンガーにかける。
我ながら、本物の夫婦のようだ。
慣れてしまった自分が少し照れくさい。
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