エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
きらびやかなアクセサリーを上品に身に着けている。

「お疲れ様。挨拶回りは終わったの」

慧さんの挨拶でお母様だとわかり、慌てて背筋を伸ばす。
梧桐聖良(あおぎりせいら)さんだ。電話では話してことがあったけれど、会うのは初めてだ。

「あと半分よ。こんばんは詩乃さん。やっと会えて嬉しいわ」

「初めまして、ご挨拶が遅くなりすみません」

「いいのよ。会えなかったのはわたしが海外ばかり行っていたせいだもの。そのネックレスとてもよく似合ってる。ドレスもほんと素敵よ。慧の見立てもなかなかのものね」

選んでもらったドレスは、スカートがふんわりとしているデザインなのに深い藍色のおかげでとても大人っぽく見える。

当初は胸元までのデザインだったが、追加でショルダーがあしらわれた。慧さんはストールも準備してくれて、おかげで肩も腕も出さずに済んでいる。

「ネックレスありがとうございます。素敵なデザインですね。一目で気に入りました」

聖良さんがデザインしたネックレスだ。
シンプルだけれど、宝石の魅力が存分に伝わってくる。

「本当は新作をつけてもらって、プレスリリース用の写真を撮って貰うくらいしたかったんだけど。モデルにするのだけは駄目だって、慧に怒られちゃってね」

「当たり前でしょう。これ以上彼女を世間に晒すなんてとんでもない」

慧さんの意見にわたしも賛成だ。
モデルは困る。雑誌インタビューだけでこりごりだ。

「そうよねぇ。みんな詩乃さん見てソワソワしてるものね。慧が過保護になるのも頷けるわ」

(ソワソワ?)

たしかに視線を感じてはいたが、ソワソワとはどういう意味だろう。
慧さんが注目を浴びていたのはわかっている。

「危なっかしいですかね? 転ばないようにヒールは低めにしたんですけど……」

全身を確認すると、聖良さんはクスクスと笑った。

「あら、自覚がないのね」

「詩乃はこのままでいいんですよ。そういう初心なところも魅力なので」

全然意味がわからない。
首をかしげるわたしを見て、慧さんは眉を垂らして苦笑した。

「どうも詩乃は鏡をみたことがないらしい」

「鏡は毎日みてます」

「不思議だな。なにが見えているんだろう」

肩を竦めた慧さんを、聖良さんは面白そうに眺めていた。

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