エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
「ん……」

詩乃が眉を顰める。
一度考えを中断し、彼女を見ると現状を思い出し頭が痛くなる。

今までのように寄り添うだけではなく、今夜は一緒のシーツに包まる。
ナイトウェアごしの彼女の温もりで、理性をなんども飛ばしそうになった。

「生殺しだな……」

ゆっくりと関係を育みたいと思っている。けれど俺も男なわけで。
熱を冷ましたくて身じろぎすると、余計に彼女はしがみついた。

「こら……」

囁く。
しかしそれは彼女には届かない。起こさないように呟いたのだから当たり前だけれども。

深い溜め息とともに、次々と湧き出る欲情も吐き出す。
手を出すな。
理性的な自分が警告をだしていた。けれど理性は欲に押し負ける。
詩乃が抱きついてきたのだから、少しぐらい。
悪魔の囁きとともに手が伸びた。

髪を梳き、背中を撫でる。腰に腕を回すと華奢な肩に唇を寄せた。

「ん……」

耳元に吐息をかけると詩乃は悩ましげに呻いた。くすぐったかったか。
初めにこの子を天使と謳ったのは誰なのだろう。
色素の薄い髪。
白い肌には、桜色の唇がぷくっとのっている。
恥ずかしがると、頬がすぐにピンクに染まるのが好きだ。
寝顔までなんて可愛らしいのだろう。

しっとりと濡れる睫毛。涙の後が残る頬に、自分の頬を重ねる。

「愛しているよ。早く、俺のものになって」

触れたら壊れてしまいそうだ。
儚げな彼女の寝顔を、ずっと眺めていた。

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