エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
「やっとこれたな」

「うん。昨日まで大変そうだったけど、もう落ち着いたの?」

理央との一件からは、まだ一カ月も経っていない。
昨日の事のような気もするし、とても昔の事にも感じる。

わたしは連絡先を変えて、理央が今どこでどうしているのかを知らない。大学も辞めてしまった。

あと半年だったのにと、わたしが言っては行けない気がして、やり場のない思いを吐き出せずにいた。
寂しくないと言ったら嘘になる。だって、楽しい思い出の方が多いのだ。

「そうだな、あらかた落ち着いたよ。詩乃と結ばれてからというものの、なんだかずっと慌ただしかったな。やっとふたりでゆっくりできる」

慧さんが色々忙しいと嘆いていたのは、仕事に加えて、週刊誌の件もあったようだ。


まず、慧さんは写真を撮られたことをわかっていた。
慧さんが買い物を終えて店をでた途端、待ち構えていた女の人が腕を絡めてきた。

女の人はパーティーでわたしを値踏みした、ファッションデザイナーの娘だ。
接触された瞬間にシャッター音がしたので、記事は仕組まれたもの。カメラマンは彼女が雇ったのだとすぐに気が付いた。

彼女の目的は、あわよくばという結婚願望だ。
ずっと女の影がなかった慧さんがは、誰が媚を売ろうともびくともせず孤高の存在だった。

梧桐の御曹司を落とす女は誰だろうと、以前より話題になっていたらしい。

パーティーもいつもひとりでの出席で、連れて行っても血縁の誰か。パートナーらしい同伴者を連れて行ったのは初めてだった。しかも慧さんはわたしに好意を寄せていることを触れて回った。

梧桐慧もとうとう動き始めたと周囲は沸いた。
しかも相手はわたしのような子供ときたものだから、誰もが自分にもチャンスがあるかもと思ったに違いない。
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