初恋の始め方
awareness
気がつけば、午後の授業を受けている。
―――「デート、しようよ?」
高瀬くんの声がリフレインする。
"デート" ってなに?
それが自分の身に起こることだと全く想像もしないまま、今の今まで生きてきた。
デートなんてみんな普通に経験するものだと知ってはいるけれど、私には大人になって結婚するような相手と初めてするものだと、漠然とそんな思い込みがあった。
あまりにも現実味のない言葉と、灼けるように熱い視線と、掌の温度に戸惑っているうちに、イエスとも、ノーとも答えるタイミングを逃してしまった。
放課後になったら文化祭準備の時に根掘り葉掘り聞かれるんだろうな、と少し憂鬱。
高瀬くんの好意を受け止めきれない私は、いくら問われても自分の中の感情を言葉に表すことができない。
冷え込み始めた秋の乾いた風が、さらりと足を撫でる。
喉の奥に残るココアの甘ったるさが、胸の中にじんわりと熱を残していくようだった。