初恋の始め方
「私は悪くないと思うよ」
放課後、各々が作業に勤しむ輪の隅で、あい子は周りに聞こえないよう配慮して声を潜める。
「え?」
「デート、してみたら?」
その声が、やけに優しくて、心地よくて。
なんだか妙に泣きたい気持ちになる。
あい子のそれは、興味本位のような軽い言葉ではないから、私は自分でも気づかないうちに高瀬くんの気持ちと真剣に向き合うことになるのだ。
案の定、放課後の教室で結衣ちゃんを筆頭に女子の集団に囲まれた私は、馬鹿正直にさっきの出来事を白状するはめになってしまった。
部活に向かう生徒や帰宅する生徒がまだ大勢行き来しているのに、思いがけず大きな声で "デート" と口にされて焦った。
集団に詰められるだけでも気が重いのに、これ以上大衆の注目を集めるなんて無理だ。
そこに含まれるのは、好意的な感情だけではないのだから。
人の気も知らずに好奇心で詰め寄る彼女たちを、あい子が諌めると少し冷静さを取り戻してくれたけれど。