初恋の始め方
「だって、今のさくらは高瀬のこと嫌だ、って思ってないでしょ?」
教室の中で散りぢりに去っていったみんなを横目に言葉を紡ぐあい子は、私自身もよく分からない心の内をひとつずつ教えてくれるようだ。
「そこで、やっぱり無理だって感じたらやめたらいいだけだし。それを確かめるのもアリだと思うよ」
私の中に、確かに高瀬くんに対する好感が生まれていることを見抜かれている。
それを見て見ぬふりをしても、なんにもならないことは分かっている。
でも、それだけじゃない。
あまりにも大きな問題が残っている。
「村上さんが…」
私の懸念に、あい子も少しだけ表情に翳りを見せる。
「それは無視できないけど、さくらにその気があろうとなかろうとあの人には関係ないじゃん?高瀬だって気持ちを曲げるつもりはないだろうし。じゃあ、あとはさくら次第だよ」
私次第。本当にその通り。
私の人生は、他でもない私自身が、選んで決めていかなくてはならないのだから。
どの道、今更断ることなんてできないのだし、私には行く以外の選択肢はないのだ。