Macaron Marriage
* * * *

 次の日、少し早めに二階へ上がると、萌音は静かに部屋の窓を開けた。もう来てるかしら? そんな期待を寄せつつ外へ顔を出す。すると驚いたことに、既に少年が塀に座って待っていた。

 いつもより早い時間だからか、月明かりが少年の口元から下の部分を照らしていた。

「あれっ、今日は早いね」
「えっ……もういたの?」
「うん、実は明日帰るんだ。だからいつもより長くお喋りできたらなぁって思って」

 明日と聞いて、萌音は急に寂しくなった。せっかく仲良くなってきたと思ったら、もうお別れだなんて……。

「君に会えたおかげで、今年の夏はすごく楽しかったよ」
「うん……私も……。ねぇ、ロミオくんは何が好きなの? 聞いてみたい」
「僕? うーん……なんていうかさ、好きなものはいろいろあるんだ。スイちゃんみたいに絞れてないんだけど、天体、農業、雑貨、歴史、語学、文化、そういうことをこの先勉強したいって思うんだ」
「……私なんかよりずっとすごい……」
「そんなことないよ。お互いやりたいことがやれている未来だったら幸せだね」

 萌音はその言葉に胸が高鳴る。"やりたいことをやれている未来"が来るためには、私は何をしたら良いのだろう。

「ロミオくんって不思議ね……私にやる気を(みなぎ)らせてくれる」
「あはは! でも似たようなことをこの間言われたかも。最初の夜に話した星が好きな問題児にさ、『先輩と話してると勇気が湧いてくる』って。意味わからなかったけど」

 ううん、私はわかる。きっとその人もロミオくんと話しながら、自分の未来について考えたり、気付かされたりしたんだと思うの。出会って三日しか経っていないけど、本当に不思議な人。
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