Macaron Marriage
「そういえば池上さん、由利さんとお付き合いを始めたそうですね!」

 突然紗世に言われ、萌音の体は硬直してしまう。

「えっ⁈ ど、どうしてそれを……⁈」
「うふふ。由利さんから聞いちゃいました」
「紗世ちゃん……あれは聞いたというか、問い詰めたっていう方が正しいと思うよ」
「あら、そんなに変わらないわよ〜。でも良かったです。ちゃんと自分の気持ちに正直になってくれたんですね」

 紗世の表情はとても穏やかで、それが心からの言葉であることがわかる。この人はいつも偽りのない言葉をかけてくれるから、つい本音を話してしまうのかもしれない。

「……上野さんが背中を押してくださったから、自分でも踏み出す勇気を持てたんです。やっぱりどうやっても彼を好きな気持ちは抑えられなかったし、彼も……好きだと言ってくれたので……」
「……わかりますよ、その気持ち。好きな人のそばにいたい、自分のものにしたい……気持ちってどんどん欲張りになりますよね」

 波斗の方を向いて彼の頬を撫でる紗世は、どこか寂しげな顔をしていた。そのことに気付いたのか、波斗は小さく「ごめんね」と呟くと、紗世の手を取りそっと口づける。

「もしかして……ご主人様は……」
「私の方が彼を大好きで、でもなかなか振り向いてくれなくて……」
「うん、本当に面目ない……ずっと反省してます。でも今は俺の方が紗世ちゃんを好きかもしれないよ」
「波くん……"好き"の大きさを競うなんて、バカップルっ思われちゃう」
「いえいえそんな! 仲が良くて羨ましい限りです!」

 すると紗世と波斗は突然ニヤニヤ笑い出し、手で口を押さえるとブッと吹き出した。

「由利さん、相当池上さんにハマってるようだったし、実はもうラブラブ沼なんだと思ってましたよ〜」
「えっ⁈」
「そうそう。紗世ちゃんに問い詰められた割に、かなり惚気(のろけ)てたよね〜。あんな先輩初めてだったから、こっちまでドキドキしちゃったよ〜」

 翔さんが惚気る⁈ そんなことあるの⁈ 二人から翔の報告を受け、萌音もドキドキして心拍数が上がっていく。

「池上さん」
「は、はいっ……!」
「《《きっとハッピーエンドになりますよ》》」

 紗世の唐突な発言に萌音は驚いたように目を見張る。みんな同じことを言うのは何故かしら……でもだからこそ、そうなればいいと期待の気持ちが膨らみ始めていることを否定出来なかった。
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