Macaron Marriage
「素敵……!」
「この柔らかい感じ……紗世ちゃんぽいね」

 二人がとても好印象を抱いてくれているのが伝わり、萌音はホッと胸を撫で下ろす。そこでもう一つの提案をすることにした。

「上野様、以前お色直しはしないと仰っていましたよね」

 すると波斗がキョトンとした顔で紗世を見つめる。

「そうなの?」
「うん、ほら、着替えるのが大変そうかなって思って」
「……俺はお色直しした紗世ちゃんも見たいよ……」

 明らかに落ち込んで下を向いてしまった波斗の肩を困ったように紗世が撫でていると、萌音は立ち上がって棚からあるものを持って戻ってくる。

 萌音が手にしていたのは、華やかな花柄の刺繍が施されたブルーの布地で作られたベストのようなものだった。

「これは?」

 不思議そうに紗世が尋ねると、波斗もふっと顔を上げた。

「着替えるのが大変ということでしたので、少しの手間でイメージの変わるものがあったらどうかなぁと思いまして、提案材料として作ってみたんです」

 萌音はマネキンに着せたドレスから襟を取り外すと、代わりにブルーの花のベストを着せた。すると先ほどとはまた違った印象のクラシックなドレスへと変化したのだ。

「わぁっ……全然印象が違う!」
「これくらいでしたら短時間で変えることが出来ますし、ご負担にならないのではと思いまして……」
「紗世ちゃん……ごめん、気付かなくて。でもこれ、すごく素敵だと思う」
「ううん、私も勝手に決めちゃってごめんね。そうだよね、波くんはお色直しも見たかったんだって考えなかった。じゃあ……これでお願いしちゃおうか?」
「うん、そうしよう!」

 二人が萌音の方を向いたので、萌音も大きく頷いた。

「ありがとうございます! ではこちらも含めて本縫いとさせていただいても構いませんか?」
「はい、よろしくお願いします!」

 紗世はうっとりとドレスを見つめながら、波斗の手をそっと握る。すると波斗も頬を赤く染めて嬉しそうに紗世に寄り添った。

 二人からはいつも幸せなオーラを感じる。その二人の晴れの舞台に携われることがとても嬉しい……萌音は口元を緩ませ、胸がほっこり温かくなるのを感じていた。

 ついこの間まではモヤモヤした気持ちになったのに、今は好きな人と結ばれて愛し合いことの喜びを知ったことで、自分自身も翔を思い出しては胸が熱くなっていく。

 早く会いたいな……キスして触れ合って……また一つになりたい。そんなふうに考えては頭が爆発するほど恥ずかしくなった。
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