Macaron Marriage
* * * *

 翔は大きく胸を上下させ、よろめきながら萌音の隣に腰を下ろすとクスクス笑い出す。

「あー……やばいな……。ここに入るたびに萌音の艶っぽい姿を思い出しちゃいそうだよ……」

 そう言われて、萌音は自分が翔を煽ってしまったことを思い出して恥ずかしくなった。

「ご、ごめんなさい……私ったらつい……」
「なんで謝るの? "つい"俺としたくなっちゃった?」

 萌音が黙って頷くと、翔は嬉しそうに頬を緩ませ、彼女の肩を抱き寄せた。

「俺を喜ばせ過ぎ。そんな可愛いこと言われたらもっと独り占めしたくなる」
「わ、私だって……もう翔さんがいればそれでいいって思ってる……」

『たった八ヶ月だって恋は出来る』

 確かにその通り。私はこんなにも彼を愛してる。でも深みにハマってしまった恋から抜ける自信なんてなかった。

 寂しそうに俯いた萌音の額にキスをすると、彼女の体を抱きしめる。

「愛してるよ……萌音……」

 その言葉は萌音を幸せを与えながらも、同時にどん底にも突き落とすのだった。

* * * *

 翔の車で自宅へと送ってもらった萌音は、体に残る彼の余韻を感じながら、華子に怪しまれないよう気をしっかりと持って玄関のドアを開けた。

 しかしいつもだったらどこかからひょっこりと顔を出す華子が全く姿を現さない。何かあったのではと不安になった萌音は、慌てて室内へと駆けていく。

「華子さん⁈」

 キッチンには料理をしていた形跡があるものの、本人の姿はなかった。

「あら、萌音さん。お帰りなさいませ。どうかされましたか?」

 突然背後から声をかけられ、萌音は驚いたように振り返る。するとそこには笑顔の華子が立っていたのだ。

「華子さ〜ん。いるなら返事をしてよ。何かあったんじゃないかって心配したよ」
「あぁ、それは失礼しました。実は先ほど来客がありまして……」
「来客?」

 今日は予約は入っていなかったし、翔さんとは先ほど別れたばかりだ。式場関係の人なら私を呼び出すはず……そこまで考えてから、萌音の頭に嫌な予感が浮かんできた。

 華子さんが抵抗もなく受け入れる人物ってもしかして……。

「萌音」

 名前を呼ばれた方向に視線をやると、居間の扉のそばに立つ男性が目に入った。

「元気そうで良かったよ」

 萌音は口を閉ざして眉根を寄せる。それは紛れもなく父の姿だった。
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