Macaron Marriage
「どういうことなのかね……二人はその……付き合っていると?」

 父親の声からは動揺が窺える。それに対して翔は至って落ち着いて話をしていた。

「えぇ、彼女が帰国してからですがお付き合いをさせていただいています。実は彼女が大学生の時に偶然出会っていまして……私は《《ずっと》》彼女に好意を抱いていましたし、自然に交際の流れになったんです」
「そうだったんですね、いや、納得しました。まさか顔合わせの前に婚約者と恋仲になっていたとは……これなら萌音も抵抗する必要はないというものですな」

 父親は明るくそう言ったが、萌音の心の中では煮え切らない感情が燻っていた。

「とりあえず今日の顔合わせは私と萌音さんを引き合わせるためのものでしたし、後日改めて両親を交えて行うのはいかがでしょうか?」

 翔が提案すると、父親は二人が寄り添う姿に納得したかのように大きく頷いた。

「そうですね。そうしましょう」

 未だに納得のいっていない萌音だったが、この場を収めるために笑顔で頷く。その萌音に、父親はにこやかに話しかける。

「なっ? 悪いようにはならなかっただろ?」
「……だとしても、なんだか複雑な気分だわ……」

 萌音の目が全く笑っていなかったため、父は嫌な予感を感じ取りすぐさま立ち上がる。

「で、では翔くん、萌音のことを頼んだよ! また両家顔合わせの日程が決まったら教えておくれ!」

 そう言い残すと、あっという間に部屋から飛び出して行ってしまったため、部屋に残された二人はただ呆然と立ち尽くす。

「……翔さんはは知っていたのね……」

 萌音が眉間に皺を寄せたまま言ったので、翔は困ったような笑みを浮かべる。

「きちんと話がしたいから、場所を変えてもいいかな?」

 翔の言葉にしばらく無言だった萌音だが、ため息を一つつくと小さく頷いた。
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