Macaron Marriage
 石畳の通路の先にテーブル席が見え、椅子に座って待つスーツ姿の男性の背中が見えた。しかしその瞬間、萌音の足が止まってしまう。

 スーツ姿の男性の後ろ姿なんてみんな似たり寄ったりなはず。でもあの後ろ姿はどう見たって……。

 翔は萌音の手を引いてテーブルの前まで歩いていくと、その男性に声をかけた。ただ萌音は不安を拭い去れず、翔の背中に隠れるように立ち尽くしていた。

「お待たせしてしまってすみません。しかもこんなに早い時間にお呼び立てして申し訳ありませんでした」
「いえいえ、構いませんよ」

 その声を聞いた萌音は目を見開き、そして確信した。

「しかし私に用というのは一体……」
「実は社長にご紹介しておきたい方がおりまして……」

 翔はそう言って萌音の手を引っ張って自分の隣に立たせると、そっと彼女の肩に手を置いた。

「こちら、私が今一番大切にしている女性です」

 顔を上げた萌音は、目の前にいる人物を目にして顔を(しか)めた。それは相手もまた同じで、萌音の顔を見てあんぐりと口を開けて呆然としている。

「も、も、萌音〜⁈ な、なんでお前が翔くんと一緒にいるんだ⁈」
「それは私のセリフよ! なんで翔さんとパパが知り合いなわけ⁈」

 すると父親は驚いたように目を見張る。

「なんでって……萌音の婚約者だからに決まっているだろう?」
「……はっ……? 婚約者……?」

 今度は萌音が驚いたように翔を見るが、翔はにっこり微笑んだだけで何も言わなかった。

「翔くんは逃げ回るお前をずっと待ってくださっていたんだぞ。なのに萌音は相手の名前すら聞こうとしないし……」
「……嘘……翔さんが婚約者……?」
「うん、実はそうなんだ」
「そんな……言ってくれれば良かったのに……」
「萌音が俺の名前を聞いていたらすぐにわかったはずなんだけどね」
「うっ……確かに……」

 二人の様子を見守っていた父親は、二人が知り合いであることが理解出来ずに未だに頭を悩ませているように見える。
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