Macaron Marriage
「ありがとうございます。でも具合が悪いわけじゃないので気にしないでください」
「……何かあったんですか?」
その人は穏やかな笑みを浮かべると、萌音の隣に静かに座る。
「実はこれから婚約者との顔合わせなんです。でも私、結婚なんてまだしたくないのに……もっといろいろなことを勉強したいんです」
泣きそうになりながら話す萌音の足を、男性が人差し指で小突く。顔を上げると、男性は今度は空を指差す。そこには白い雲が流れていた。
「逃げちゃえばどうです? あの雲みたいに」
この人はなんてことを言うのだろう……そう思う反面、どうしてその事実に気づかなかったのだろうとも思う。
「……出来るかしら、そんな大それたこと」
「大丈夫。人間やれば出来ますよ」
その時、遠くの方から萌音の名前を呼ぶ父親の声が聞こえた。それが萌音に『逃げろ』と決意させる。
「ありがとうございます! 私、逃げてみます!」
「はい、気をつけて〜」
男性に背中を押され、萌音は全速力でその場から走り去る。その後ろ姿を見ながら、男性は楽しそうに笑っていた。