Macaron Marriage
 その時だった。萌音が小さなくしゃみをすると、翔はハッとしたように自分が着ていたジャケットを彼女の肩に掛ける。

「すみません! 寒いですよね。そろそろ中に入りましょう」

 翔は立ち上がると、トレーをどかしてレジャーシートを畳み、もう片方の手でトレーを持つ。

「あっ、私が持ちますよ」
「大丈夫ですよ。良かったらドアを開けてもらえますか?」
「あっ、はい!」

 萌音がドアを開けて翔を招き入れると、翔はシートを玄関の下駄箱の横に置く。

「キッチンはどこでしょうか?」

 どうやらトレーを運んでくれる様子を見て、とりあえず玄関ドアの鍵をかけてから部屋に入る。

「すみません。こちらです」

 萌音が先導しながらキッチンに向かい、ドアを開けた。その後についてきた翔は、作業台の上にトレーを置いた。

「へぇ、素敵なキッチンですね。萌音さんは普段お料理は?」
「……出来なくはないんですけど、平凡なものしか作れなくて……。なので父が心配して華子さんを雇ってくれたんです……んっ……」

 翔の顔を見上げようとした途端、急に唇を塞がれた。作業台に体を押し付けられ、広げられた足の間に翔の膝が差し込まれる。

 呼吸もままならないほどの激しいキスに、頭がクラクラする。貪るようなキスって、きっとこういうことを言うんだわ……。

 萌音は体から力が抜け、翔の膝の上にストンと落ちてしまった。胸を大きく上下させる彼女を見て、翔がゴクリと唾を飲み込む。

「萌音さん……今夜そばにいたいって言ったら……ダメですか?」
「えっ……そ、それは……ダメです……!」
「そうですよね、すみません。萌音さんも同じ想いでいてくれたことが嬉しくてつい……」

 困ったように笑いながらそばを離れようとする翔の姿に、萌音は何故か胸が苦しくなってしまう。思わず手を伸ばし、翔の胸に力いっぱい抱きついた。

「萌音さん……?」
「……き、キスまでって約束出来ますか?」
「……もちろんです」

 萌音は布越しに聞こえてくる翔の心臓の音がやけに早いことに気付く。翔さんも緊張してる……?

 しかしふと顔を上げてみれば、翔は嬉しそうにニヤニヤしている。

「萌音さん、知ってますか? キスにもいろいろな種類があるんですよ」
「か、翔さん……?」
「ふふふ、朝まで寝かせませんよ」

 驚きのあまり目を(しばた)かせる萌音をヒョイと軽々と抱き上げると、翔は二階の寝室へと駆け上がった。
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