誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
プロローグ

『There is no unstoppable rain』(止まない雨はないよ)

 泣き崩れる私に言ってくれたその優しい笑顔が今でも脳裏に浮かぶ。
 辛すぎたあの日からあなたのその言葉が、私の人生の支えだった。
 
 東京から遠く離れたこの場所が、私の気持ちを大胆にしたのかもしれない。

 その日、ずっとあこがれていた人に私は抱かれた。

「俺は誰も愛せない。それでもいいのか?」

 政略結婚の私たち。愛されるなんて夢はみない。義務だということもわかっている。
 でも、私はまたあなたに恋をした。

「わかっています」
 
 きちんと立場をわきまえるから。だから少しだけ夢を見させて欲しい。

「後悔するぞ」

 そう言いながら、私に触れる手が優しすぎて切なくなる。
 どうせ愛のない身体だけのつながりなら、もっと乱暴に酷くされたかった。

 目元からこぼれる涙は、嬉しいのか悲しいのか自分でもわからない。

 ただ、壊れ物のようにあなたが扱うことがもどかしい。
 
 でも、この夢のような一夜があれば、これから先、私は生きていける気がした。


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