誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
追憶と現実

 五月のまだ少し肌寒い朝、私はいつも通り目を覚ます。ギシっと音を立て今にも壊れそうなベッドから、ゆっくりと立ち上がると大きく息を吸った。

 障子を開けると一気に部屋の中に日差しが降り注ぐ。窓の外の木々に目を向けると宵に雨が降ったようで、木々の緑が水滴で光っていた。

 広大な敷地にいくつもの邸宅からなるこの宮下邸。今もなお英国のジャコビアン様式が随所にみられる見事な屋敷だ。
 まるで公園のような美しい木々に囲まれた本邸には、大きな扉を開ければ目の前には壮大なカーペット張りの階段、その周りには数々の美術品。そして、壇上には肖像画。そんな昔の繁栄が色濃く残る場所。
 それなりに管理とリフォームをせれているため、とても住みよく心地のよい屋敷だ。
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