誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
『仕方なく引き取っただけよ。世間体とあんたの利用価値があるからっておじい様が。間違っても従妹だなんて外で話したら承知しないわよ』

 その言い方に私は唖然としてしまう。両親の死後まだ癒しきっていない心にさらに追い打ちをかけられるこの状況に、私は帰りたくて仕方がなかった。
 やっぱりあの時、両親の後を追っておけばよかった。そう思った時、さらに円花は言葉を投げつける。

『その服きちんと洗っておきなさいよ』
それだけを言うと、円花は階段を上がって行ってしまった。

『宗次』
ぼんやりとそんなやり取りを見ていると、叔母の声に黒のスーツを着た、一見して使用人とわかる男性が現れた。

まだ若いのではないだろうか。私よりは年上そうだが、とても精悍な顔立ちをしている人だった。

『例のあの部屋に案内して、そして仕事を教えておきなさい』
『はい、奥様』
静かに礼をすると、彼は音も無く階段を下りてくる。
< 11 / 44 >

この作品をシェア

pagetop