誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 ただ事ではない雰囲気にごくりと唾液を飲み込む。偶然に全員で外出をするときに出くわしてしまったのだ。そう思うと、私は道を開ける様に端により頭を下げた。

「天音」
 いつかのようにカーペット張りの階段の上から呼ばれた声に、ドクンと嫌な汗が流れ落ちる。
 初めて祖父に呼ばれた自分の名前。一瞬誰のことがわからなかった。しかし、確かに”天音”と聞こえた。返事をあえてしなかったわけではない。喉が張り付いて声が出なかっただけだ。
 そんな私をよそに、苦虫を潰したように叔母が口を開く。

「お義父様、返事もできないような子じゃ無理ですよ」
「そうよ、こんな子じゃね。でも私はあの男が嫌になったの。本当に無口でつまらないのよ」
 叔母と円花が口々に祖父へと言葉を発するも、祖父は黙ったままだ。そんな妻と娘を見かねたのか、叔父が円花に向かって笑顔を作る。

「円花にはもっといい縁談を用意したからな」
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