誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 昔ながらの蛇口をひねるタイプの洗面所で顔を洗い、使用人の制服に着替えを済ます。もちろん水道は給湯機能などないので、夏はぬるく、冬は凍えるほど冷たい水しか出ない。そんな生活にもすっかり慣れてしまった。

 離れを出て、一分ぐらい歩くと、別世界の邸宅が現れる。毎日その邸宅を見ると零れ落ちそうになるため息を耐えつつ、その勝手口から本邸に足を踏み入れた。

 いつも通り、使用人が集まる部屋に向かおうとしていると、人の気配を感じた。普段は、ほとんど顔を合わすことのない円花が、階段の上から降りてくるのが見えて息を飲む。
 
「ついてない」そう思ってしまうも、挨拶をしないわけにもいかない。私が頭を下げようとしたとき、円花の後ろからくる叔母、そしてあろうことか祖父、そしてほとんど顔を合わせたことのない父の弟である元哉さんの姿まであった。
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