誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 すべてを持ち合わせている彼がこの結婚を了承する理由は確かにない。

 彼の祖父が立ち上げたとはいえ、この事務所三十二歳という若さでスペシャリストという立場にいる彼に、どんな言葉を紡いでも論破できるわけもない。でも。

「すぐに離婚をしていただいて構いません。それまでどんなことでもします。どうかお願いいたします」
 畳みかける様に言葉を紡いで顔を上げれば、彼は表情を変えずに私を見ていた。

「何を企んでる?」
 私のたくらみが露呈したのか、少しだけ今までの丁寧すぎる言葉が変化した。その声に背中に冷たい汗が流れ落ちる。

「企むなんて……私はただ家のために」
 そんな気持ちは全くないが、何とか口にすれば、「フッ」と失笑するような声が聞こえた。

「わかりました」
 しかし、すぐに以前の温度感で彼は言う。そして何の感情も無い瞳を私に向けた。
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