誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 ただ一つ覚えていることは、ほとんど近所の人しか参列することがなかった葬儀で、東京からのふたりの弔問客。多分父が生前お世話になった人だったのだろう。もう顔もはっきりと覚えていないが、優しい雰囲気の人だったと記憶している。

 一緒に来ていた、私より幾分年上の男性は、放心状態の私の前にゆっくりと座った。

『There is no unstoppable rain. 日本語だと……。とりあえず元気を出してください』

 少し困ったようなような表情をしていたことと、ブラウンの宝石のような瞳。それだけが今でも私の中に残っている。

 ひとりで小さな公民館で座っていた私に伝えてくれた言葉は、今でも私の心の支えだ。あの時、本当は両親をきちんと送ったら、自分も後を追いたかった。もう幸せなどなにもないそう思っていた。

 しかし、その人のお陰で私はあの時、この世にとどまった気がする。

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