誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 葬儀から三日後、両親の遺品をぼんやりとしながら片付けつつ、これからどうしようかと思っていた時、いきなり静かな町が騒がしくなる出来事が起こった。

 小さな借家の前に止まった黒塗りの高級車。
 両親が亡くなったばかりで喪に服すように静かだった街が、一気にざわめいた。

『松原と申します』
 真夏のうんざりするぐらい暑い日なのに、真っ黒なスーツを着込んだその人は静かに名乗った。
 放心状態だった私は、なにも深く考えることなくその人を見上げた。

 名前だけを聞いても、どこの誰かもわからない私をよそに、その人はあっという間に許可なく、家の処分やすべての処理をして、私を祖父の家へと連れて行った。

 世間体なのか、なんのためか今となってはわからない。
 しかし、そこからがまた、私の最低の日々の始まりだった。

『やっぱり私は神にも仏さまにも見放された』
 そう呟いたのが遠い過去のような気さえする。
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