片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜



 ど、どうしよう……。長風呂しすぎちゃった……。

 予定より時間がかかってリビングへ向かうと、伊織さんは既に寝室へ向かったあとだった。気付けば一時間以上もお風呂場にいたようだ。

 先に寝てしまっても仕方がない。後を追うように寝室へ入ると、ベッドサイドの明かりが灯る部屋で、彼が寝返りを打ってこちらを見た。

「ごめんね、起こした?」
「大丈夫だよ、緋真のこと待ってたから」
「えっ」
「せっかくだから一緒に寝ようと思って。お風呂長かったから先に布団入ったけど」
「あ、そうだよね。つい長風呂しちゃって」

 一瞬、伊織さんも同じ気持ちなのかと期待したけれど、勘違いのようだ。

 ベッドに入ると、いつものように「電気消す?」と聞かれたので、返事に困って黙り込んでしまった。

「……緋真?」

 こういうのはムードが大事だと郁ちゃんにも言われたし、私なりに調べた結果でもそうだった。

 まずは、相手をじっと見つめて……。

 無言で伊織さんへ視線を向けると、想像よりも近い距離で、端正な顔がこちらを覗き込んでいた。それだけで急に照れくささがこみ上げてきて、咄嗟に顔を背けてしまった。

 見つめるどころか、まともに視線を合わすことができないなんて。とんだ意気地なしね。
 
「どうかした?」

 心配が混ざった声色で、伊織さんが体を起こす。その声に答えるよりも先に、自ら距離を詰め彼の胸元に顔を寄せた。

 誰かに教わった通りに事を運ぶなんて、やっぱり私には無理だ。形振りなど構ってる余裕などないのだから。

「緋真……?」
「あの……」

 上手く頭が回らない。寄せた胸の温もりだけで、のぼせてしまいそう。
 自分自身の緊張を誤魔化すため、彼のシャツをそっと掴んだ。

「……したい、の」
「は……」
「……抱いてほしい」

< 34 / 100 >

この作品をシェア

pagetop