片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
夫の憂鬱 Side伊織


 目が覚めると、薄暗い部屋の中、すぐそばに緋真の寝顔があった。いつも彼女のほうが先に起きて朝食を用意してくれているから、こうしてまじまじと寝顔を見るのは初めてかもしれない。そして、手を伸ばせばすぐに触れられる距離で眠ったのも初めてだ。

 昨夜緋真は「抱いてほしい」と告げた。一瞬聞き間違えかと思ったが、彼女は本気だった。真っ直ぐな気持ちが嬉しいと思う反面、恥ずかしいことを言わせてしまって申し訳なく思う。

 それでも抱かなかった理由は、緋真の体が岩のように硬く小刻みに震えていたことと、微かに「頑張らなきゃ」と必死さが伝わってきたから。

 その上はじめてだと言われてしまえば、勢いで済ませてしまうのは据え膳を食わぬことよりも最低なことに思えた。

 同時に、まだ少し緋真の本心がわからなかった。見合い結婚という形で一緒に暮らし始め、完璧な妻であることを演じる彼女は、夜の営みも義務的なものに感じているのではないのか、と。

 だからこそ今まで、彼女の気持ちも汲んで様子を見ていたのだ。まさか不安にさせていたとは夢にも思わず、いたく反省したのだけれど。

 本当はずっと触れたくて、すぐにでも抱きしめて、身も心も自分だけのものにしたかった。最近では気持ちが抑えられず、触れてしまうこともあったが。

 ちなみにそう思い始めたのはもうずっと前から。ホテルで顔を合わせた日には、すでに心惹かれていた。


 緋真に初めて出会ったのはもう二十年以上も前のことで、もちろん彼女は覚えていなかったが、俺はあの日のことを一度も忘れたことがない。それもあって、緋真に再会したときに、あまりに美しい女性になっていたから一瞬で心を奪われた。彼女と結婚”しなきゃいけない”とか、そういう”使命感”などはどこかにいってしまうほどだ。

 対して緋真は、心から俺のことを想ってくれているのだろうか。親に言われた結婚だから受け入れようとしてくれているのかもしれない。見合いを申し込んだ時点で、悩むことはわかりきっていたのに今更だ。

 それならば彼女が俺に夢中になるように仕向ければいい、ただそれだけ。今度の旅行で緋真のすべてを確実に手に入れなくては。

「…………」

 息をしているかもわからないほど、静かに眠る女性(ひと)だ。

 化粧をしていない顔はどこかあどけなくて、暗がりでもわかるほど肌が透き通っている。こんなに綺麗なのに――
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