片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 そっと身を寄せ、緋真の頬にキスを落とす。彼女はくすぐったそうに身を捩った。

 純粋無垢な寝顔をずっと眺めていたい。穏やかな時間をずっと過ごしていきたい。

 そのためにも、二人を脅かすものはひとつ残らず取り除いておく必要があった。

 緋真から聞いた、昨夜のことを思い出す。

 ――白鷹さんか。少々厄介だな。

 昨夜緋真には、白鷹さんに関する最低限の情報を伝えたが、彼女には他人より“過剰”な面がある。

 朝から白鷹さんのことを考えるのは億劫で、休日のひとときに、しばしの間現実逃避をすることにした。


 
 緋真とゆっくり過ごそうと思った日曜日は、午後一で病院から呼び出され、別々に過ごすことになった。仕事だから仕方はないのだが、もう少し緋真との時間を作れたらいいのに。

 東梨医科大学病院での勤務は、基本的に週に四日。他一、二日は外勤に出ることが多い。医師というのは世間一般的に高給取りだと思われがちだが、労働時間を考えれば見合っているかどうかは怪しい。それでも自分が選んだ道ではあるため後悔はしていないのだけれど。

 さすがに疲れが抜けきれないまま迎えた月曜日。今日はとくに手術の予定もなく、午前中最後の外来患者の診察を行っていた。

「……経過もいいですね。おそらくもう数カ月で傷跡も消えると思います。通院は今日までで大丈夫ですよ」
「はぁ、よかった……一生治らなかったらどうしようと思っていたので。本当に神花先生のおかげです」

 患者は半年ほど前に自転車事故で顔面に受傷し、頬にひどい擦り傷と、額に十針縫うほどの切り傷を負った二十代女性。

 はじめこそ見るに堪えない状態で、彼女自身も俯いて目を合わせてくれないほどだったが、今では気にならない程度まで回復し、今では潤んだ瞳を真っ直ぐにこちらへ向けていた。

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