BODY BLOW ~Dr.剛の恋~
恋する明日鷹
午前8時。

俺は宝の店にいた。
駅通りにある小さなカフェ。
路面はガラス張りで、店内は明るい。
カウンター席が5席。ソファーテーブルが3組。頑張っても15人入るのがやっとの店だ。

宝はこの店のオーナー。
開店は午前9時、閉店は午後10時。
モーニングから、ランチ、ディナーまで、休むことなく切り盛りしている。

「剛、コーヒー飲む?」
すでにカップの準備をしながら、宝が聞く。

「ああ」
「明日鷹は?」
同じように、隣に座る俺の親友にも声をかける。
「ああ、ありがとう」
返事をする明日鷹だが、なんだか元気がない。

「桜子ちゃん大丈夫なのか?」
思わず口をついて出た。
「うん、桜子は大丈夫。家に閉じこもっているから何もしでかす心配がなくて、俺も安心だ」
なんて、引きつった笑い顔をする。

これは、相当まいっているなあ。
いつもの余裕がまるで感じられない。

明日鷹の恋の相手、鈴木桜子は1年目の研修医。
昨年4月から明日鷹の元についていた。

うちの病院は大学の付属病院のため、医学部を卒業するとそのまま研修医になる学生が多い。
彼女も親しい大学の仲間と一緒に1年目の研修医として勤務に就いた。
そして、毎年受け入れた研修医の中から何人かは、研修途中でドロップアウトする者が現れる。
精神的に病む者、体を壊す者、人間関係に負けて他院に移る者、自分の限界を感じて休職する者、理由も状況も色々だが、どうしても何人か挫折する者が出てしまう。
彼女の親しい友人がそうなってしまった。
疲労回復のために使った薬で薬物依存となり、病院から無断で薬を持ち出して逃げた。
すぐに、病院と警察による捜査が行われ、彼は窮地に立ってしまう。
彼と親しかった彼女が彼を探そうとするのを俺と明日鷹は必死で止めたが、切羽詰まった彼からの連絡を受けた桜子ちゃんは飛び出してしまった。
そして・・・精神を病んでしまっていた彼に、彼女は刺された。

彼女の傷は全治1ヶ月。
しかし、病院は彼女に3ヶ月の休養を申し渡した。
ようは、謹慎だ。あわよくば、このまま辞めてくれとさえ思っているだろう。
明日鷹はそんな娘に恋をしてしまった。
< 10 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop