BODY BLOW ~Dr.剛の恋~
「宝さん」
店の奥から、学生バイトの裕貴くんが呼ぶ。

「何?」
怪訝そうに近づき差し出されたスマフォを見た途端に、宝の表情が曇った。

「どうかした?」
声をかける俺を振り返るものの、何も言わない。

俺はカウンターの中に入ると裕貴くんが持っていたスマフォを手に取った。

え?
そこには、この店や宝についての誹謗中傷が書き込まれていた。

「何これ?」
「最近たまにあるんです」
何も言わない宝に変わって、裕貴くんが答える。

「宝ちょっと」
俺は宝を呼ぶと奥の休憩室へ入った。


休憩室は、スタッフが休憩したり経理の事務処理をする部屋。
6畳ほどのスペースに、テーブルと椅子とパソコンが置かれている。

「座って」
置かれていたパイプ椅子に座ると、後から入ってきた宝にも座るように促す。

「どういうこと?」
「どうもこうもないわよ。身に覚えのない誹謗中傷がネット上に上がっているの。それだけよ」
何でもないことのように言う。

それだけって・・・
さっき見た限りでは、店の実名や最寄り駅まで書かれていたし、あきらかに嫌がらせじゃないか。
宝のことだって、名前までは書かれていないが、かなり具体的に本人特定が出来る書き込みがしてあった。

「何でそんなに平気な顔しているの?」
思わず、きつい口調になってしまう。

「大丈夫。知り合いに調べてもらっているし。それに、このくらいのこと私は平気だから」
淡々と話す宝。

言いたいことはあるが、俺もそれ以上何も言わなかった。
強がりではなく、宝が「このくらいのこと」と言う理由を俺は知っている。
それは、彼女が本気で命を投げ出したことがあるからだ。
1度死にかけた命。
俺もその場にいた。
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