BODY BLOW ~Dr.剛の恋~
「なあ剛、お前に頼みがあるんだ。今夜にでも、時間とれる?」
「良いけど。なに?」
随分思わせぶりな言い方に、つい身構えてしまう。
「今は良いよ。まだ、話をつけないといけない外野が多くてね」
苦々しい顔。

きっと、桜子ちゃんのことだろう。
明日鷹は今回の件に直接絡んでいるわけではないけれど、桜子ちゃんとの関係で随分注目されている。
それを明日鷹の両親やOB達が黙っているはずがない。
すでに、明日鷹の海外赴任の噂もチラホラ聞こえているし。

「今日は土曜日で外来は休みだし、明日も勤務の予定はないからいつでも連絡くれたら良い。昼間は医局に顔を出すつもりだけど、夜なら空いてるから」
「ありがとう」

俺だったら、親や周りの言うことなんか気にせずに、自分の気持ちのままに行動するだろう。
でも、明日鷹にはそれが出来ない。相手を気遣ってしまう奴だから。

「お待たせしました」
宝がブランチの入った鞄を置く。

サンドイッチと、人参のサラダ、キッシュとフルーツ。
特別に、宝の入れたコーヒーも水筒に入れて。

明日鷹は満足そうに店を出て行った。

「なんだか、明日鷹がかわいかったわね」

すでに明日鷹のいなくなったカウンターに、宝は並んで座った。
確かに、普段は見ることの出来ない素顔だ。

「それだけ、彼女のことを大事にしているんだよ」
少し冷めたコーヒーに口をつけながら、俺は宝を見る。

ん?

「いや。・・・今日も遅いのか?」
「うん。夜のバイトが1人休みだから、最後まで残るつもり。剛、今日休みなのよね?」
「ああ」

俺たちは普段から時間が合わない。
俺は当直や急な呼び出しもあり不規則だし、宝もバイトを何人も使っているとは言え長い営業時間のせいで休みが取れない。

「人を雇うとか、営業時間を短くするとかした方が良いんじゃないの。そのうちお前が体を壊すよ」
「大丈夫」
いつもいつも繰り返される会話。
でも、宝はこの生活を変えようとはしない。
< 12 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop