BODY BLOW ~Dr.剛の恋~
「そんなに飲んで大丈夫?」
俺以上に速いピッチでビールを開ける彼女に、つい声をかけてしまった。

「大丈夫ですよ。私お酒強いんです。それに、もう死んだりはしませんから」
言いながら、手早くつまみを用意する彼女。

結局朝まで飲んだ。

これが、俺と宝の再会。
それからは週に何度か店に寄って食事をするようになった。
俺たちにハッピーエンドはないことは分かっている。
宝は5歳で亡くしてしまった奏太を心に抱えて一生生きていかなくてはならない。
俺は自分の未熟さのために救えなかったかもしれない命のことを忘れることはできない。
俺と宝が出会えば、できかけたかさぶたを剥がすことになってしまう。
それでも、時間をかけてお互いの心の中に入り込んでしまった。
たとえどんなに非難されても、
世界中の人が宝の敵になっても、
将来のない関係だったとしても、
俺たちは一緒にいることを選んだ。

***

「剛」
ん?
「何ボーッとしてるの?」
休憩室でインターネットの書き込みを見つめながら、考え事をしていた俺を宝が呼ぶ。

「書き込みの件は、本当に大丈夫。それより、今から病院に行くんでしょう?」
「ああ。仕上げないといけない書類もあるから」

休みの日でも、勤務医は忙しい。
医者というと高給取りのイメージが先行するが、実際労力は半端ない。
平日は外来や病棟の勤務に追われ、時間外でも緊急の呼び出しや当直、救急外来と休む暇がない。
その上時間を見つけて論文や書類の作成など、本当に体が3つくらい欲しい。

「何か持って行く?」
「いや、朝作ってあったおにぎりを持って行くから」
「そう。私は遅くなりそうだから」
そう言うと宝は仕事に戻っていった。
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