モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 するとそこへ、それまで黙っていたグレゴールが口を挟んだ。

「殿下。調味料研究も大切ですが、普及の方が優先ではないでしょうか。米も手に入るようになったことですし」

「もちろんだ。まずは王都で広めよう」

 クリスティアンが頷く。グレゴールは、さらにこう続けた。

「豚肉を代わりに用いれば、さらに多くの国民が食べられるようになります。ハルカによると、豚と生姜も合うのだとか。『ブタドン』だったか?」

 ええと頷けば、クリスティアンは興味を抱いたようだった。

「ほう。それも是非、食してみたいものだ」

「そう言っていただき、ありがたい限りです。ではハルカには、『ブタドン』作りの方を先にさせようかと……」

 グレゴールが、私をチラと見る。私は、ピンときた。私が修道院で、カロリーネと出会うことを心配しているのだろう。

(気遣いはありがたいけれど。でも私、逃げたくはないわ……)

 私は、クリスティアンを見つめて告げた。

「殿下。もちろん豚丼もお作りいたしますが、私は醤油作りも早く取り組みたく存じます。よろしければ、今日これから修道院へ向かおうと思います」

 グレゴールが、横で息を呑むのがわかった。クリスティアンが、機嫌良く頷く。

「そうか。前向きな奥方であるな。ではグレゴール、彼女を案内いたせ」

「……承知いたしました」

 渋々といった様子で、グレゴールが答える。「『ブタドン』を楽しみにしておるぞ」というクリスティアンの声を背後に、私たちは部屋を出た。とたんに、グレゴールが眉をひそめる。

「本気で修道院を訪れるのか? 『ブタドン』作りの間に、時間稼ぎをして、違う作業場を用意しようと思っていたのだが……」

「やっぱり、そういうお考えでしたか。でも大丈夫です。私は、カロリーネ様とちゃんと向き合いたいのです」

 力強く言い切ると、グレゴールは、しばらく私の顔を見つめていたが、やがて頷いた。

「そういうことなら、お前の意志を尊重しよう。だが、困ったことがあれば、いつでも言え」

「はい、ありがとうございます!」

 修道院の場所は、王宮からそれほど遠くないという。いったんハイネマン邸へ戻ると大回りになるので、私はグレゴールと共に、すぐに向かうことにした。





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