モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 勇気を出して素直な褒め言葉を口にしたことで、グレゴールとの関係は少し変化した。グレゴールだけでなく、メルセデスや使用人たちにも同じように感謝や賛辞の言葉を口にするようにしたところ、男女問わず、距離が縮まった気がした。
 真心を込めて人と接することは、本当に大切だなあと私は実感した。これまでの私は、その場限りの上っ面な会話しかしてこなかった気がして、その点ひどく反省したのだった。
 舞踏会の準備も順調に進み、ついに三日前となった。その日、メルセデスとティータイムを楽しんでいると、家令のヘルマンがやって来た。何やら、慌てた様子だ。
「メルセデス様、大変でございます。ゲオルクが、厨房で倒れまして。ひどい高熱で、すぐに医師に診せました」
 ゲオルクというのは、ハイネマン邸の料理長だ。メルセデスは、心配そうな顔をした。
「流行病かしら?」
「医師の診断では、違うとのことです。ですが、とても仕事ができる状態ではありません。タイミングが悪いことに、副料理長がただ今休暇中でして、厨房には見習いしかおりません。メイン料理を作れる者がいないのでございます」
「仕方ないわね。ゲオルクの体調が優先だわ」
 メルセデスは、深刻そうに頷いた。
「出せる料理だけで結構よ。簡単なもので……」
「あの」
 私は、思わず割って入っていた。
「よかったら私、作りますよ?」
「ハルカ、あなた料理ができるの?」
 メルセデスは、目を丸くした。この世界の上流家庭では、料理は使用人の仕事とされている。公爵家の令嬢である彼女からすれば、とても信じられない話だろう。
「私のいた世界では、料理は女性の仕事、という意識が強かったんです。私も、一通りは作れます」
「ですが、ハルカ様にそのようなことをしていただくわけには……」
 ヘルマンは恐縮したが、私はやると言い張った。
「こちらにはお世話になっていますし、是非やらせてください」
 強硬に主張すると、メルセデスはついに折れた。
「気を遣わなくてもいいけれど……。ハルカがやってみたいのなら、お願いしようかしら? どんなものを作ってくれるのか、楽しみだわ」
 メルセデスはヘルマンに命じて、私を厨房へ案内させた。以前住んでいたワンルームのキッチンとは、比較にならない広さで、私は仰天した。食材もふんだんにそろっていて、もはや感激するレベルだ。
 見習い料理番たちに、調味料の場所や炉の使い方を教えてもらって、私は早速調理を開始した。勝手が違うので、最初は少しまごついたが、本来料理は好きなのですぐに楽しくなった。あっという間に、数品ができあがる。
 そうこうしているうちに、玄関の方で気配がした。グレゴールが帰宅したらしい。つまりは、もうすぐ晩餐だ。
(ジャストタイミングだわ……)
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