モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 すると、エマヌエルと呼ばれた、男性の方が答えた。
「まあね。クリスティアンの加減が優れなかった時は、たいそう心を痛めていたけれど。父は彼のことを、我が子同然に思っているから……。でも、回復したと聞いて、安堵しているよ」
「それはようございました」
 グレゴールは、重々しく頷いた。何だか、よそよそしい態度だ。
「話はすでにお聞き及びのようですから、省略させていただきますが、こちらが異世界から来たハルカでございます」
 グレゴールは、そう言って私を二人に紹介すると、私の方を向き直った。
「ハルカ、こちらは近衛師団ご所属のエマヌエル様と、妹君のカロリーネ様だ。ベネディクト王弟殿下の、ご長男とご長女であらせられる」
(子供たち……!?)
 とたんに緊張が走る。近衛師団所属ということは、武官か。そういえば父親のベネディクトも、軍部を指揮する立場だったか、と私は思い出した。
「ハルカと申します。お目にかかれて、光栄でございます」
 内心を押し隠して、教わった通りに挨拶すると、二人は軽く頷いた。エマヌエルは、再びグレゴールの方を見ると、薄く微笑しながら言った。
「クリスティアンが回復したのは喜ばしいけれど、君ならば、もう少し手の打ちようもあったのではないかな、グレゴール? 異世界から聖女を召喚など、現実主義の君らしくもない。そんな非科学的な方法で、果たして効果がいつまで持続するか、疑問だ」
「聖女召喚は、イルディリア王国の古文書にも記されている、伝統的な手段ですぞ。それに非科学的な話なら、エマヌエル様の方が通じておられると思っておりましたが?」
「嫌味な奴だ。歴史の成績は、いつも僕より上だったくせに」
 エマヌエルが、軽く頬を引き攣らせる。今いち会話の内容はつかめないが、二人のピリピリした雰囲気からして、仲が良くないことだけは、何となくわかった。
「お兄様、昔の話を持ち出すのは、お年を召されてからになさいませ。もう舞踏会は始まりますわよ?」
 取りなすように、カロリーネが朗らかな声を上げる。それを合図のように、楽団の演奏が始まった。私とグレゴールは、兄妹から離れるように踊り始めた。
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