モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

9

 二人きりになると、グレゴールは私に駆け寄り、抱き起こした。

「どうしてここが?」

「聖獣たちのおかげだ」

 グレゴールは、ウォルターとセシリアを指した。

「彼らが、ハルカに危険が迫っていると、マキ殿に伝えてくださったのだ。彼らの先導で、ここへ駆け付けた。非常時には、壁を通り抜ける力もお持ちなのだそうだ」

「そうだったんですね……」

 私は、二匹の頭を撫でてやった。グレゴールが、せかせかと尋ねる。

「大丈夫か? エマヌエルにはどこまでされた? そもそも、なぜ王都へのこのこ戻ったんだ?」

「えっと……。頭を殴られましたけど。エマヌエル様には、まだ何も。ここへ来たのは、メルセデス様を装った偽手紙に騙されて……」

 自分でも頭を整理しながら、言葉をつむぐ。グレゴールは、目をつり上げた。

「偽手紙だと? 詳しく聞きたいが、先に医者だな。あの二人の罪状には、暴行罪も加えるとして……」

「ちょっと待ってください!」

 私は、グレゴールの言葉を遮った。

「さくさく進めないでください。大体、何ですか。あなたばっかり質問して。私だって、聞きたいことはあります。その……」

 途中で私は言いよどんだ。いざグレゴールと向き合うと、質問する勇気が出なかったのだ。

(私を愛しているって、本当に……?)

「お前を愛しているという言葉なら、あれは本音だ」

 私は、ハッと彼の瞳を見つめた。

「最初は、確かに殿下の側妃に差し出す目的だった。お前は器量が良いから、珍妙な言動さえ矯正すれば、きっと気に入っていただけるだろうと踏んだのだ」

 グレゴールは、淡々と語った。

「俺のその計画は、実に順調だった。外見も内面も磨いて、いっそう魅力的になったお前を、クリスティアン殿下はたいそう気に入ってくださった。狙い通り……、だったはずなのに。何だかこう、もやっとするのだ」

 グレゴールは、自らの胸を押さえた。

「俺は鈍いから、なかなか自分の気持ちに気付けずにいた。いや、気付かないふりをしていただけかもしれない」

 グレゴールが、微苦笑を浮かべる。

「お前が離宮の裏庭で、エマヌエルに触れられていた時、無性に苛立った。強情な俺は、それでもお前への恋心を認められなかったのだが……」

 でも、とグレゴールは照れくさそうに続けた。

「お前がクリスティアン殿下に、ギュウドンを振る舞っていた時。俺が食べさせてもらったことの無い料理を、殿下が先に召し上がったことが、ひどく悔しくてな。それで、ついに認めざるを得なくなったというわけだ」

 もしかして、と私は思った。

(私が料理ができるという話、殿下にはわざと伏せていた……?)

「お前の作る料理を、俺は他の男に食べさせたくなかったんだ。だから、殿下には黙っていた」

 私の疑問を見透かしたように、グレゴールは言った。
< 87 / 104 >

この作品をシェア

pagetop