モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

8

「なっ……」

 エマヌエルが、顔色を失う。グレゴールは、軍人たちに短く命じた。

「連れて行け」

 彼らがいっせいに、エマヌエルを取り押さえる。グレゴールは、補足するように言った。

「なおベネディクト殿下におかれましては、クリスティアン王太子殿下殺害未遂の、証拠も挙がっております。極刑も、お覚悟を」

「何だと! あの呪いは……」

 言った後で、エマヌエルはハッと口を押さえた。グレゴールが、にやりとする。

「エマヌエル様も共犯でいらした、しかとこの耳で聞きましたぞ」

 軍人らがエマヌエルを立たせ、連行しようとする。その時、地下室に、ふらふらと一人の女が入って来た。

 カロリーネであった。なぜか、顔が傷だらけだ。彼女は、部屋の隅にちょこんと丸まっているセシリアをにらみつけた。

「この猫め! よくも……」

 どうやら、セシリアにやられたらしい。そんなカロリーネに向かって、エマヌエルが怒鳴った。

「呪いのことをグレゴールに漏らしたのは、まさかお前か。カロリーネ!」

「そうよ!」

 ヒステリックに、カロリーネがわめく。

「どうしても、この女を元の世界へ追っ払いたかったのよ! 呪いの証拠を渡せば、儀式の方法を記した本をくれると、グレゴールが言うから!」

「馬鹿か、お前は! 自分で自分の首を絞める気か!」

「お兄様だけには、馬鹿と言われたくありませんわよ!」

 兄妹は、醜く言い争っている。 

「この女……ハルカさえいなければ、グレゴールは私の方を向いてくれるわ。だから、今すぐ実行してやる!」  

 言いながらカロリーネは、背後に隠し持っていた物を取り出した。私は、あっと思った。それは、例の本だったのだ。

 カロリーネが、本を開く。だが、そこへグレゴールの声が響いた。

「ご自由に」

私は、思わずグレゴールを見つめた。彼が、静かに続ける。

「呪文を唱えたいなら、お好きなだけどうぞ。時間の無駄ですがね。この本は、偽物です」

「う……そ……」

 カロリーネが、青ざめていく。グレゴールは、彼女の手からスッと本を取り上げた。

「あいにく、あなたのお気持ちには応えられません。私が愛しているのは、ハルカです。ですが、仮に彼女の存在が無かったとしても、あなたを愛することは無いでしょう」

 私は、耳を疑った。

(ちょっと待って。真ん中に、とんでもない台詞が挟まらなかった……?)

「待って、グレゴール……」

「エマヌエル、カロリーネ両殿下を投獄するように」

カロリーネの言葉を遮って、グレゴールが軍人らに命じる。彼らは心得たとばかりに頷くと、二人を連れて出て行った。

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