キスだけでは終われない

「お待たせしました」

「良かった。来てくれた。行こう」

ニコッと口角が上がった顔が素敵とか何者なのこの人。
慣れた様子でさりげなく私の背中に手を添え、歩き出す。

こんな素敵な人だもんね。女性への対応が上手すぎて戸惑う私とは大違い。

「近くのホテルでフレンチでもどうかと思って予約しておいたんだけど、良いかな。一人だとレストランに入り難いと聞いていたしね」

「ここから近いって、もしかしてラッフルズですか。そんな豪華な夕食をご馳走になってしまっていいんでしょうか。先ほどもこの服を買っていただいてますし…」

「もちろんだよ。君と行きたいたいんだ」

そう言って彼は手を差し出した。
どうしたら良いのか迷い宙に浮く私の手を彼は迷いなく掴んだ。

強引だけど嫌じゃない、そう思っている自分にも驚く。

レストランに着くと予約してくれていたようで、窓際の席に案内された。

「今日はお仕事はもう大丈夫なんですか。昼間も私のことで時間を取らせてしまって、すみませんでした」

そう声をかけていると、予約してあったというだけありすぐに食前酒が運ばれてきて、前菜から次々にテーブルに運ばれてくる。

「勝手にコースで頼んでしまったけど、アレルギーや苦手なものとかあったかな?」

「大丈夫です」

「では、君との出会いに乾杯しよう」

「はい」

何者か気にはなるけど、どうせ今晩だけでもう二度と会うことはないだろうし、今だけを楽しめればいいか…なんて考えていた。
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