キスだけでは終われない
「シンガポールへは観光?」
「はい。観光ですね」
「一人で?」
「はい。今回は一人です」
「今回って、よく来るの?」
「両親の出逢いがシンガポールらしくて、家族で何回か来ていたので、一人でも行けそうな所かなって思って決めたんです」
「へぇ…そうなのか。まぁ、いい所だよな」
「シンガポールっていつ来てもどこか新しいものが見つけられるというか、エネルギッシュで変化がすごく多くて刺激になるかな、なんて…」
そう言って、肩を竦めてみせる。
「そうだな…エネルギッシュなところだな」
「住んでいる人でもそう感じますか?」
「ずっと住んでいる訳ではないんだ。もうこちらに来て3ヶ月にはなるが、後3ヶ月もしたら日本に戻る予定なんだ」
「私だったら半年近くも日本を離れていたら、きっとホームシックになっちゃいます」
「もう2年くらいは行ったり来たりだし、忙しすぎてホームシックになってる時間もなかったな。それに月に一度は日本に戻ったりしてるしね」
「そんなに忙しいんですか?それなのに今日はずいぶん時間を取らせてしまって、ごめんなさい」
「いや、忙しいからこそこういう時間を大切にしたいと思ってるんだ」
こういう時間って?…いったいどんな時間なの…なんて疑問に思うけれど、私には関係ないと思うと聞き返すことはできない。そこは触れないようにして会話を続ける。