キスだけでは終われない
マンションのエントランスに入ると共用スペースに彩未ちゃんが座って待っていてくれた。
「彩未ちゃん、お待たせしました」
「おかえりなさい。そんなに待っていないから大丈夫よ。それより疲れたでしょう。部屋に行きましょう」
二人でエレベーターに乗り、部屋へ向かう。
「あぁ、帰ってきた。ただいま、我が家」
「うふふ、そんなに家が恋しかった?」
「だって5日ぶりだよ。待ってて、今窓開けて空気の入れ換えするから」
「ランチに香苗の好きなベーカリーで適当なものを買ってきたわよ。コーヒーいれるね」
「ありがとう」
私の大変身から彩未ちゃんは私の部屋によく来てくれるようになり、都合が合えば家で過ごすことが増えていた。お互いが学生だった頃はよく家に行き来していたので、昔のように頻繁に会えることが嬉しい。
「それで、一人での旅行は楽しかったの?」
「うん。それなりに…」
「何かあったの?」
「うん…。日本に戻る前日にちょっと…」
「え、なに?」
どこから話そうかと考えてしまい咄嗟には答えられず「…ぁ…」と、小さく溢して視線を上に向けて黙ってしまう。
「…ねぇ……何かあったでしょう。もしかして男関係じゃない?」
「えっ。どうしてそう思うの?」
「だって顔赤いよ」
「えっ!?」
「それに…なんか変わった。すごくすっきりしてる?」