冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
五章 ミリアの戸惑いと、決めた獣人王子様

その翌日、ミリアは午前中『胡蝶の間』でじっとしていた。

窓から見えない位置にあるソファで、クッションを抱っこしたまま横になって引きこもっている。

正午を過ぎても、アンドレアが訪ねてこなかったことにはほっとした。

(……そりゃ、いきなり人の首を噛んだら来られない、よね?)

そんなことを思っていると、少し前に昼食の食器を下げていった侍女のうち二人が、そわそわと待っていた届け物を知らせに来た。

「姫様、こちらがご所望の本になりますわ。集めるのにお待たせしてしまい、申し訳ござません」

「いえいえっ、お仕事が忙しい中でありがとうございますっ」

反射的に扉まで走り寄って、両手で受け取った。

(あれ、姫らしい返答ってこんなだっけ?)

ふと不安に駆られたが、侍女たちが微笑ましげな表情で「それでは」と退室していってひとまず安心した。

「――ふぅっ、体力温存っと」

扉の向こうにある寝室に入ったのち、いったん生活魔法をといた。

ベッドにぼふっと腰かけたミリアの、シーツに広がった長いプラチナブロンドが本来のオレンジ色へと戻る。

ミリアは昨夜、他に何か必要なものはないかと侍女たちから尋ねられた際、獣人族のことを知るための本をお願いしていた。

急く思いで、観光向けのような本を開いて調べたかった部分の項目を探し開く。



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