冷酷な獣人王子に身代わりで嫁いだら、番(つがい)として溺愛されました
そもそも、何がどうしてこうなっているのか。

その時、アンドレアが頭を起こした。ほっとしたミリアは、顎を掴まれ、上を向かされてどきりとした。

「君が結婚した相手の〝夫〟は、俺であるはずだろう」

切なさそうに覗き込まれて、緊張とは違う胸の鼓動を感じた。

どうして、アンドレアがそんな顔をしているのか分からない。ミリアは時間が止まったような気がした。

無性にどきどきして、うまく考えられない。

すると、彼が赤い目を細めた。顎に触れている手の親指で唇をなぞられ、わけも分からず背筋がぞくんっと震える。

「――俺も答えが出ていないので、これ以上は自制しよう」

彼が、どこか耐えるような顔で手を止めた。

「答え……?」

「君は獣人族を知らないようだから、教えておく。獣人族の結婚にはフェロモンが関わる。初夜の最中にフェロモンが一番強く出たところを噛むことで、婚姻が成立する」

ミリアは目を丸くした。

先程彼がエミリオに口にしていた『婚姻成立』というのは、初夜のことだったようだ。

「そうすることで、夫の発情はその伴侶に限定される」

「は、発情?」

まさかの単語にびっくりする。

「えっと、そうすると今、殿下はそうなっているということですか?」

ミリアは混乱しきって、結婚するつもりもない相手にいきなり噛み付き、舐めてきた彼に尋ねた。

彼がハタとして目をそらした。

「――すまなかった。ここで失礼する、君の騎士たちを呼んでこよう」

困惑し、考え込んだ顔で彼はミリアを立ち上がらせた。手早く衣装の乱れを整え直すと、最後まで目を合わせないまま出て行ってしまった。

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