もう嫌い! その顔、その声、その仕草。

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 それは、約束の午後。

 向かった先は、茶屋街からは目と鼻の先ほどの距離にありながらの別世界。

 花街界隈に生活の基盤が出来上がってしまったためか? 高層ビルが聳え立つ街の中心は何とも居心地が悪い。何度訪れても慣れないそのオシャレな外観を見上げ、深くため息を吐きながら中へと入った。

 広いエントランスを抜け、階段で二階まで上がる。エレベーターを使うほどでもないと辿り着いたその場所で、一年前共にこの新天地にやってきた友人の碧子が「おはようさん」と元気に笑っていた。

「お店抜けてきたの?」

「呼ばれちゃったからね。時間休もらって来た」

「その浴衣カッコイイ」

「あぁコレ? いいでしょ」

 最近のお気に入りだと自慢しながら扇子で自身を扇ぐ。ここまで歩いて来たため体温が上がりきった身体からは汗が滲み出ており、早々シミを作るのは嫌だとハンカチでそれを拭いとった。
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